会社全体で残業を撲滅するには、この打ち手がよいのか?

 ちょっと前にFBで記事が回ってきたので、それからずっと考えている。

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 簡単に言うと、この会社では「30時間分の残業代」を月の給与に含ませて支払っている。これにより「残業時間が少ないほど得」というインセンティブが働き、実際に残業時間を減らすことに成功しているとのこと。

この会社の「残業を減らそう!」という取り組み自体は素晴らしいことだし、実際に成果をあげているようなので「この会社にとっては」良い方策だったのだろう。

ただ私がずっとモヤモヤしているのは、「自分の会社でこれをやったら、どうなるか」ということだ。
結論から言ってしまうと、以下のいずれかに当てはまらない限り残業は減らせない。
①余力があるのに残業しているので、仕事の密度を高めれば減らせる。
②業務マネジメントの精度を上げて、残業しなくても完遂できる仕事量にする。
実際には職場に①と②の打ち手が必要な状態が混在しているのだが、②をやるのって結構大変。

 そこで少しまじめに考えてみた。

残業の理由も様々
①の余力の問題は、個人の仕事の取り組み方の問題である(「無駄な会議が多い」といった組織の問題もあるが、その比重は少ないと考える)。
②については、与えられる業務負荷だけでなく個々人が目標とする達成度にも依る(人によってばらつきがある)。
結局、この2つがおのおのどの程度なのかが、人によって異なる。
この2つの要素を考慮してマトリクスにしてみたのが下図。

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①に相当する項目として稼働率(平均で何%の力を発揮して仕事をしているか)を、仮に50% / 75% / 100% の3水準設けた。稼働率100%というのは、その当人がこれ以上改善しようがない全力の効率で働いていることを示す。
②に相当する項目として「残業する理由」を1~4のように定義した。
1は見ての通り。4はとにかく与えられた業務の納期を守る最低限の行為。2と3は少し分かりにくい。2は例えば、レポートをワードで書いているときやプレゼンをパワポで書いているときに、字詰めの統一を手動でおこなったり、フォントの装飾にひたすら時間をかける、といった「かけた時間に対して効果がほとんど無い」行為で残業している場合を指す。一方3は、例えば機械設計で「一旦こういう形で設計したが、少し形を変えれば製造効率が(設計変更にかけた時間以上の効果で)上がる」といったことに設計者自身が気づき、自発的におこなう変更のようなもの。これは創造性の発揮であって、「与えられた仕事をこなす」4とも、また「利益に寄与しない」2とも異なるので独立した項として設けた。

 

12人の社員への効能
 このように(稼働率の3水準)と(残業理由の4水準)とで12通りでそれぞれ1人ずつ、12人の異なる状況の社員が居るとする。彼らは今、月間40時間残業しているとする。来月から「30時間分の残業代を無条件で支給する」となったら、彼らはどうするだろうか? 

上図での色分けは、以下のような考えうるストーリーごとに色分けしたものである。

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色によっては、社員が取るであろう選択肢が2種類想定できる。
さてここで、(A), (B), (C)という記号が出てきた。このA, B, Cによって「30時間分残業代付与」施策が会社や社員に与える影響が以下のように異なるのだ。
(A) 会社は30h分の残業代原資以外に損は無い。
 ユーザにも不利益なし。社員もハッピー
(B) 結果的にユーザ・会社の利益減少
(C) 不公平感により優秀な社員のメンタルヘルス低下
見て分かるとおり、BとCはまずい。手を打たねばならない。
 さらに複雑になるが、このBとCに対しての打ち手も、状況により異なる。それが以下のX, Y, Zである。
(X) 業務オーバーフロー状態。早急に負荷を減らす必要あり。
(Y) 「+αの成果」を事前・事後にきちんと評価する仕組みが必要。
  でないと成果による利益が損なわれるか、社員がやる気を失う。
(Z) 「+αの"成果"」は何の利益ももたらさないので、不要な努力をさせない働きかけが必要。
  それをしないと、不要な(C)状態に陥る場合がある。

効能は3タイプ
 とても複雑になってしまったので、改めて分けて図解する。ここでこの「30時間分の残業代を一律付与」という施策の効能が、社員の状況ごとに明らかになる。


[社員群 その1]

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会社は30h分の残業代原資以外に損は無い。ユーザにも不利益なし。社員もハッピー。

[社員群 その2]

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社員に不満は出ないが、社員自身の選択によりユーザや会社の利益が失われる場合あり。

[社員群 その3]

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ユーザや会社の利益が失われるか、または社員の不公平感が増す。


果たして施策は吉と出るのか?

 上記の社員群1、2、3を今一度その「現在の稼働率」と「残業理由」で見分けて欲しい。会社の利益に貢献すべく残業している社員は2および3であって、1ではない。が彼らこそこの制度によって不利益を被ってしまう。
結局、社員群1の割合が現状高いか、もしくは2および3の状態を解消する施策をセットで用意できる会社でないと、社員も会社もハッピーになれない。12タイプの分布によって、施策による得失の大小は大きく異なる。

まとめ

 冒頭に記した①に該当する、または②③を同時に実行できる会社でないと、本施策は有効ではない。
①余力があるのに残業しているので、仕事の密度を高めれば減らせる社員が多い

②業務マネジメントの精度を上げて、残業しなくても完遂できる仕事量にする。

③会社への貢献度を考慮した、評価制度にする。

 

あなたの会社はどの社員群が多いですか?
②③を実行できますか?